日々のほとり・1番外編
『幸せのケサランパサラン』
BY 月香 |
リクオはこの春、無事に中学三年に進級した。 昨年は、長期療養により学校を長く休んでいたため進級が危ぶまれ、担任の教師に進級が決定するギリギリまで、留年するかもしれないと脅しをかけられながら補習に精を出した。 そして、元々成績の悪くなかったリクオは、無事に三年生になることが出来たのだった。 学校を長く休まざるを得なかった理由は、鵺──安倍晴明との戦いのためだ。 百物語組との鬼ごっこ以降、『浮世絵中学の奴良リクオは妖怪だ』という噂がネットで広まったため、混乱を避けるために家庭の事情で休みをとっていた時期から始まり、鵺にやられた怪我の治療に時間がかかってしまったのだ。 公けには、百物語組との鬼ごっこによる街の破壊行為は『正体不明の敵によるテロ』、鵺との戦いで起きた地震、竜巻、豪雨などは、人間の専門家によって、千年に一度の天変地異だと解説された。 千年前に鵺による前回の清浄が起きたことを考えれば、あながち間違いではない。 ネット上に載せられてしまったリクオ達奴良組妖怪の画像なども、事件があった頃は連日テレビのワイドショーで取り上げられていたが、同じことを繰り返せば飽きが出てくるものである。感心が薄れたのか最近では騒がれることも無くなった。 というのは表向きで、実際には新聞やテレビ局等のマスコミには、陰陽師一族の花開院の口添えで、扱いを自粛させたのだ。 マスコミに影響力のある政府のお偉方を動かすことなど、現在の花開院にとっては造作もないことだ。 元々、大阪・京都を中心とする政治家を裏から支え続けていた花開院なのだ。 そして、東京など関東の政治家の裏にひっそりと暗躍していたのが、安部晴明を祖とする御門院だった。 公言されることは無いが、古来より政事と陰陽の技は切り離せない。 事を起こす吉日などの選定は、今でも陰陽師に占ってもらい定めるのだ。 その、頼りになる陰陽師がいなくなり、必然的に日本の有力な政治家は、生き残った花開院を頼らざるを得なくなったのだった。 花開院としても、世の中をいつまでも妖怪のことで騒がせておくわけにもいかない。 それに、花開院の現当主はリクオの友人『花開院ゆら』だった。リクオが人間の世界で暮らしたいのだと頼めば、断ることはなかった。 リクオは、周りの協力や理解を得て、今のところ、見た目は平穏な生活を送ることが出来ていたのだった。 中学三年になり、生徒会から離れた清十字団の新たな溜り場は、理科室だった。 教室の鍵を持っている教師の横谷マナが、リクオ達に理解があったからだ。 リクオが鵺の事件の後、とりあえず問題無く登校出来ているのも、横谷の後押しがあったからだった。 浮世絵中学の校長らや地元の教育委員会は、ネットで騒がれていた『奴良リクオ』が、リクオに間違い無いのか、そもそもネットの噂が真実なのかどうかも分からず頭を抱えていた。 そんな校長に、『妖怪なんて居る筈もない』と、世間一般的な正論で押し通したのは横谷だった。 妙な噂など信じたく無い校長は、そのとおりだと頷く。 それでも不安がる他の教師達に横谷は、最後には『何か問題が起れば自分が責任をとる』とまで宣言した。 そして話の流れで、リクオと仲の良い清継らのグループもまとめて監督を頼まれてしまったのだ。 清継は前の生徒会長で、浮世絵中学の有名人であり、妖怪は実在すると言い回っては無用な混乱を引き起こす問題児という認識をされていたからだ。 不味いことに、清継が自分の生徒会選挙の演説会で作ったVTRを覚えていた一部の教師は、そのVTRに登場していた長い銀髪の青年が、ネットで映像が出回った恐ろしい妖怪と良く似ていることに気づいてしまったのだ。 浮世絵中学の教師達の間では、清継とリクオと『銀髪の妖怪』の関係について、何かある筈だと思われていた。 しかし、面と向かって問い正すことは無かったが、監視していますよ、というスタンスを取ることで、逆に関係の無い周囲から注意を反らそうとしたのだ。 という訳で、理科教師の横谷は、清十字団をまるごと指導するよう任されていたのである。 理科室を明け渡したのも、校外で妙な活動をされては困ると言う建前からだった。 横谷は他の教師達の前では『妖怪などいない、不思議なことなど何も無い』と理系らしく理論立てて公言しているが、実際は、切裂とおりゃんせの事件で幼なじみ共々助けてもらい、リクオに感謝こそすれ排除するつもりは全く無かった。 春の人事異動でよその学校に転勤が決まらなくて、本当に良かったと思う。 横谷は卒業まで、この子達の面倒を見るのは自分だと、使命感に燃えていたのである。 ──以上『日々のほとり・1』より冒頭抜粋 (以下、台詞のみの、ゆるーいSS) ※リクオと鴆は、まだ付き合ってません。 巻 「ねぇー、こんなの捕まえたんだけどー」 (ビニル袋の中になにやら、数センチの小さな白いもの) 鳥居 「うわー、ふわふわ♪」 カナ 「たんぽぽの綿毛?」 巻 「ううん。こいつ、目があるのよ」 鳥居、カナ「「ええ?!」」 カナ 「よ、妖怪?」 鳥居 「勝手に連れてきちゃったらダメなんじゃないの?」 巻 「それがさー、追っ払っても付いて来るから、保護したのよ」 ○○○○○ 【理科室】 清継 「これは……『ケサランパサラン』だね!すごいよ!」(PCをパコパコ) 巻 「すごいもんなの?」 清継 「これはね、持っている人に幸運を呼ぶと言われているんだよ!いやぁ、巻君は『加牟波理入道』と言い、ツいてるねぇ!」 巻 「……まぁ、これは可愛いからいいんだけどね……」(遠い目) カナ 「巻ちゃん、頑張って!」 鳥居 「いいなー。私もそれ欲しいなぁ」 清継 「だったら、増やせばいいよ」 巻、鳥居、カナ「「「え?」」」 清継 「えーっと、ボクのPC情報によると、『白粉』を与えると増えるそうだよ」 カナ 「おしろい……って?」 鳥居 「昔のファンデだよね?」 巻 「ファンデか……、じゃあ、これはどう?」 カナ 「あ、巻ちゃん!学校にメイク道具持ってきちゃダメなんだよ!」 巻 「いーじゃん、別に」 カナ 「もー!」 清継 「良いね!早速、ケサランパサランに与えてみよう!」 カナ 「……ね、ねぇ。せめて、リクオ君が居る時にしない?」 鳥居 「あれ?今日は欠席?」 清継 「今日は、ご実家の御用事で忙しいそうだよ。──これくらい、奴良君の手を煩わせなくたってボク達で解決できるさ!さあ、巻君!ケサランパサランに白粉を!」 巻 「はいはい。ファンデだけどねー」 清継 「……なんだか、嫌いみたいだね」 鳥居 「おいしくないのかな?」 清継 「うーん、昔の白粉とは違うんだろうね……」 マナ 「みんなー、もう帰りなさーい。理科室、鍵かけるわよ!」 巻 「横谷せんせー」 マナ 「なに?」 巻 「せんせー、白粉って持ってますか?」 マナ 「学校では化粧はダメよ」 カナ 「そうじゃなくってですね、実は……」 マナ 「……そう、成る程ねぇ。理科教師として、非常に興味深いわ」 マナ 「あ、じゃあ、コレはどうかしら?」 鳥居 「……(横谷先生って、もうすっかりそういう話に驚かなくなっちゃったなぁ)」 巻 「これって……高いファンデじゃないんですか?」 マナ 「うふふ、24時間私を守ってくれる、ミネラル100%ファンデーションよ!」 カナ 「……なんかそういうCMあったっけ」 清継 「凄い!食べてる!」 鳥居 「うわーかわいー」 カナ 「……なんか、いっぱい増えたね」 巻 「ちょっと、ベージュっぽくね?」 鳥居 「餌がファンデだもんね。でもちっちゃくてふわふわ」 清継 「うーん。ネットでは、『香料や色素が入っていない白粉が良い』と書いてあるけど……」 鳥居 「きっと、現代っ子なんだよ」 カナ 「妖怪に『現代っ子』とかあるのかな」 巻 「ほい、せんせ」 マナ 「ええ?ちょ、ちょっと手に乗っけないで!コレどうしたら……」 巻 「お裾分けです。なんか、幸せになれるみたいな?」 カナ 「あ、あたしも貰っていいかな……」 マナ 「幸せ……。成る程、分かりました!理科室にいらない瓶があったっけ。みんなの分も持って来てあげるわね!」 鳥居 「流石、理科の先生だね!」 巻 「はい」 カナ 「え?二つ?」 鳥居 「リクオ君の分だよね?」 巻 「家、近いでしょ?渡しといてよ」 鳥居 「うーん、もしかしたら要らないって言うかもしれないけど……」 巻 「ま、家に置いとくのもいいし、放してやってもいいしね」 鳥居 「私も、幸せ一杯貰ったら放してあげようっと」 清継 「いいのかい?貴重だよ?」 鳥居 「だって、そしたら他の誰かが拾って、その人も幸せになるじゃない。みんな幸せになるといいよね」 巻 「ったく、鳥居、超可愛い!」 鳥居 「え?やだもー、離してー」 ○○○○○ 【奴良本家・玄関】 カナ 「という訳でね、リクオ君にも持ってきたんだ」 リクオ「へぇ、そんなことが」 カナ 「……ね、リクオ君」 リクオ「何?」 カナ 「これって、本当に持ってて大丈夫?妖怪なんでしょ?」 リクオ「えーっと、ボクも初めて見るんだよね。あ、毛倡妓!」 毛倡妓「何ですか?三代目」 カナ 「(『三代目』だって。格好良い!)」 リクオ「これなんだけど……妖怪だよね?」 毛倡妓「あら?……なんか、ケサランパサランのような?」 リクオ「ちょっと理由があって……元々は真っ白だったって」 毛倡妓「じゃあ、ケサランパサランで間違いないですね。ちょっと珍しいですね」 リクオ「これって、人間が持ってても大丈夫?」 毛倡妓「害は無い筈ですわ。……ただ、その人に本当に幸運が訪れるかどうかは保証しませんけどね」 カナ 「良かった。皆にも伝えますね!」 リクオ「幸運か……」 ○○○○○ 【薬鴆堂】 リクオ「ねぇ鴆君、これ、知ってる?」 鴆 「……どれ、ああ?」 リクオ「元々は真っ白だったらしいんだけど……」 鴆 「ってことは、『ケサランパサラン』じゃねぇか。珍しいな」 リクオ「うん、ボクも初めて見たんだ」 鴆 「小さいしな、見つけるのも大変だろう」 リクオ「これって、このまま瓶に入れといていいのかな?逃がしてやった方がいい?」 鴆 「どっちでも大丈夫だろ。ケサランパサランは弱い妖怪だからな。大事にするならいいんじゃねぇか。側に置いとくなら、瓶じゃなくて桐の箱に入れてやった方がいいぜ。空気穴も必要だ」 リクオ「へぇ。──なんかふわふわで、鳥の羽毛みたいだね」 鴆 「良く知ってるな」 リクオ「え?」 鴆 「そいつは鳥妖怪の羽根だってぇ話だ」 リクオ「羽根なの?」 鴆 「ああ、なんでも特定の鳥妖怪の落ちた羽根の羽毛が妖気を帯びて、そんな風に独立した妖怪になるって、親父から聞いた」 リクオ「じゃあ元は、鳥妖怪なんだ」 鴆 「幸運を呼ぶとか言う話は昔から言われているから、良いもんを拾ったな……っておい」 リクオ「──さ、好きな所にお行き」 鴆 「なんだ、逃がしたのか」 リクオ「うん。ボクには要らないよ」 鴆 「そうか?もったいない」 リクオ「だって、ボクには鴆君が居るからね。他の鳥妖怪なんていらないよ」 鴆 「オレか?」 リクオ「ボク、鴆君が側に居てくれるだけで幸せだもの(鴆君にあげても良かったけども、鴆君の側に他の種族の近い鳥妖怪なんて置きたくないし……)」 鴆 「そうか……お前にそう言って貰って嬉しいぜ。けどな」 リクオ「なあに?」 鴆 「黒羽丸の前で、そんなこと言うなよ。あいつも鳥妖怪だからな」 リクオ「あ」 ○○○○○ リクオ「ケサランパサランって、鳥妖怪の羽根の羽毛だったんだね……じゃあさ」 鴆 「うん?」 リクオ「鴆君の羽根の羽毛でも出来る?」 鴆 「ああ?オレは毒鳥だぜ?幸運なんか運べるかっての」 リクオ「そんなこと無いよ。──鴆君は、鴆君がボクの義兄弟になってくれたことが、ボクにとっての一番の幸運だよ!」 鴆 「リクオ……」 リクオ「だから、きっと出来るよ!」 鴆 「馬鹿、そんなこと期待されたって、出来ねぇよ」 ○○○○○ 鴆 「……オレの羽根で、か……ち、ちょっと試してみるか」 鴆 「うーん。ん?うわ、やべ!」 (出来てしまった) 鴆 「すげぇな……オレ。やれば出来るもんだ。こらこら、逃げるなって。──とりあえず、瓶に入れておくか。桐の箱用意しねぇとな」 鴆 「食い物は白粉でいいのか?いや、こいつはケサランパサランじゃねぇからな……研究しねぇと」 鴆 「リクオに見せてやりてぇけど、一応コイツも妖怪だからな。妙な習性とか無いか確認してからじゃねぇと、三代目の側には置けねぇな」 鴆 「それまでは、隠しとかねぇと。リクオに知れたら大変だ」 リクオ「ああ?何がオレに知られたら大変なんだ?」 鴆 「り、リクオ!いつの間に?」 リクオ「たった今だよ。オレに隠し事なんかすんじゃねぇ!」 鴆 「コイツは隠し事とかじゃなくてだなぁ」 リクオ「また妙なことに首突っ込んでんじゃねぇよな?」 鴆 「ちが……」 リクオ「じゃあ、出せ」 鴆 「……これ……なんだけどよ。その、お前、欲しいって言ってたから。あ、まだ触るなよ!オレもこんなの初めてだから……お前に害が無いか調べてからじゃねぇと……」 リクオ「──鴆」 鴆 「えっと、余計なことだったか?」 リクオ「良くやった!でかした!」 鴆 「よ、喜んでくれるんなら、そりゃあ良かった。白いのみたいに、幸福を呼んでくれるか分からねぇけど……」 リクオ「何言ってんだ。オレにとっては、その、──義兄弟が側に居てくれるだけで良いんだぜ」 鴆 「おう!オレはお前のたった一人の義兄弟で、一番の下僕だぜ!」 リクオ「ははは──そうだな……(本当は、恋人とかが良いんだけどな……)」 ○○○●○ 【理科室】 清継 「見たまえ!ボクのケサランパサランは白く戻ったよ!」 カナ 「どうやって白くしたの?」 清継 「ネットで伝統的な白粉を買って食べさせたんだ。餌は大事だってことだね」 カナ 「ねぇ、リクオ君は?あのケサランパサラン、結局どうしたの?」 リクオ「放したよ」 鳥居 「もったいなくない?」 リクオ「今頃、幸せにしたい人のところに行っているよ、きっと」 巻 「え?でも、奴良のそのスマホの待受写真って、ケサランパサランじゃないの?」 リクオ「あ、ちょっと──」 カナ 「見せて!……って、これ、緑色だね」 鳥居 「ふわふわで可愛いね!」 リクオ「あーそれは、……別物だよ。ケサランパサランじゃないんだ(だって、生みの親が鴆君だもんね(*^-^*))」 清継 「奴良君は、何をそんなに嬉しそうなんだい?」 リクオ「え?いや、普通だよ!ボクは」 カナ 「ふーん?」 リクオ「そ、それから、ウチの者に聞いてきたんだけど、ケサランパサランを育てるにあたって、決まり事があって……」 @餌の白粉は無香料、色素無し、無添加。 A飼う時は、桐の箱に入れて空気穴を開ける。 B箱に入れたらやたらと開けず、眺めるのは年2回程度にする。 C持っていることを、他人に話さない。……等々 リクオ「だってさ」 清継 「ふむふむ、勉強になるなぁ」 巻 「桐の箱?」 カナ 「あ、あれでしょ。着物を仕舞ってる箱とか、おひな様を仕舞ってる箱とか、ああいうの」 鳥居 「見ちゃダメって言われても、見たいよね」 巻 「あ、せんせー」 マナ 「みんな!見て驚きなさい!」 鳥居 「うわ!先生のケサランパサラン、ピンク色だ!可愛いー!(……けど、ガラス瓶じゃダメなんだよね?)」 カナ 「ほんとだ!(……けど、あんまり見せびらかしちゃダメなんじゃないのかな)」 マナ 「ファンデにミネラル100%の頬紅を混ぜたのよ」 巻 「うわー、あったまいー!(……けど、白粉って色が付いてちゃダメって言ってたっけ)」 リクオ「面白いですね(……まぁ、楽しそうだから良いか)」 清継 「香料や色素が入っていると、色が自在になるのか……。ふむふむ……興味深いね」 マナ 「ピンク色にしたことだし、……これで私も恋愛運アップよ!(3?歳・独身)」 ende(20160208) |
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