X’mas song

BY 月香

『メリークリスマス!!くどー、愛しとるでー♪』
 自分の家の留守電に大音量で入っていた伝言に、新一は思わず苦笑した。
「……まったくコイツは、オレが一人暮らしだから良いものを。これが、家族とかに聞かれたらどーすんだよ、恥ずかしいヤツだな」
 そう言いながらも、実はとても嬉しかったりするのだ。
 今日はクリスマス・イヴ。だが新一の恋人は、遠く大阪の空の下だった。冬休みとはいえ、平次は大阪の剣道部の練習試合があるとかで、次に新一の元へやってくるのは年明けになると言っていた。
 新一はクリスマスを二人で過ごせないことを、少し残念に思っていたのだ。
 だから、こうして平次から声のメッセージをもらえて、なんだか胸が暖かくなる。
 返事をしてやらなくてはと思い、新一は電話の受話器を取った。だが、すぐに下ろした。代わりにポケットから携帯を取り出して、メールを打つ。
〈Merry Christmas オレも好きだよ〉
 新一にしては珍しく、甘い言葉も添えてみた。普段は何だか恥ずかしくてなかなか言えず、今までだって面と向かって言ったことはない。
 メールの送信ボタンを押した。
 すると、どういうわけか玄関のすぐ外で、着信音らしき電子音が鳴ったのだった。

「わ!メールや!」

「−−?服部っ!」

 慌てて新一がドアを開けると、そこには学ラン姿にコートを羽織り、剣道の道具袋を担いだ服部平次が立っていたのだった。
「なんで、こんな所に居るんだよ?」
 今日も明日も、剣道の練習試合があって来れないと言っていたはずだ。その出で立ちは、まさか大阪から直接やって来たのだろうか。
 平次は少しバツの悪そうな顔で、ぼそりと言った。
「えっと、オレ、電話したんや」
「ああ、聞いたよ」
「そしたら、なんや声を直に聞とうなってな、それで−−」
 一方的に言うだけでは、物足りなくなったのだと言う。そのために、往復3万近い交通費をかけて新一の元へ訪れたのだ。
「で、わざわざ来たってのかよ?……バカみてーだな」
「うん、アホやなオレ。……実は、これからすぐに新幹線で帰らなアカンねん」
 少し照れて俯いて、平次は苦笑した。
「オレが今、家に帰ってなかったらどうしたんだよ?」
「そのまま、寂しく帰ったんとちゃう?」
「……バカだな」
 新一は平次の頭を引いて肩に抱き寄せる。その首筋が、冷たくなっているのが分かった。
「うん。オレ、アホやから」
 にこっと笑う平次を抱きしめてやろうと思ったが、ここはまだ玄関の外だった。こうやって外で話をしていても寒いだけだと、新一は平次を家の中へと招き入れた。


「−−なあ工藤。メリークリスマス!愛しとるで♪」
 生で聞く声はやっぱりいい。
 新一は家の中に入ったことで気が緩み、平次を引き寄せて恋人同士のキスしようと−−したが、平次はそれにストップをかけた。
「なあ、くどーも言うてや?オレ、生でお前の声聞きに来たんやで?」
 そんな平次のお願いに、新一は少し考えてから小さな声でこう囁いた。
「……メリークリスマス……」
 平次は満面の笑みでその続きを期待しているようだったが、新一は平次の顎を軽く捕らえて、先ほどのキスの続きを強行しようと近づいてきた。
「−−うん、それで?」
 平次は、ばしっと新一の口を右手で押さえて再びそれを阻止した。新一は、自分の言葉の続きを催促する平次に、さすがにムッとして口をとがらす。
「何だよ……プレゼントでも欲しいのかよ」
 何を言われているのか分かっていたが、新一は平次の言葉をはぐらかそうとした。
「ちゃうって。オレんこと、好きって言うてや?」
「−−バカっ、そんなこと言えるかよ」
 そんな恥ずかしい台詞、頭で考えるだけで精一杯だ。そこから先、口にはなかなか出てこないものなんだと、新一は今更言葉なんて欲しがる平次を軽く睨んだ。
「オレ、言うて欲しい。わざわざ大阪から来たんやで、なぁ」
「お前が勝手に来たんだろうが」
「……言うてくれへんの?」
「……メール、見ろよ」
 そう顔を赤くしてそう言った新一の様子を見て、平次はさっきのメールが新一からの物だということと、その内容がなんとなく分かって嬉しかった。
 でも、そうではなくて……字ではなくて、何も間に挟まずに新一の声で聞きたいのだ。
 心を疑っているのではない。まさかそんなこと。
「字やのぉて、生で声を聞きたいんや!」
 新一はそんな平次をちらりと見たが、しょうがないというように口を開いた。
 が、やっぱり恥ずかしい。
「……くどー」
 その平次の目がやけに寂しげに見えて、新一はそんな恋人を抱き寄せた。そして、抵抗される前に両腕で封じ込めて、その耳元でゆっくりと密やかに呟いた。
「好き、だよ」
「工藤」
「来年も……いやその次の年も、10年後の今日も、こうやって二人で居ような」
 新一は少し照れながらも、そんなことを平次に伝えた。顔が、見えなければ良いんだ。メールか電話か何かだと思って言うと、普段言わないような言葉もどうにかなった。
「うん、嬉しいで♪」
 顔は見えないけれど、新一には平次が笑顔で居てくれることを分かっていた。


 平次は1時間ほど工藤邸に居て、そのまま大阪に帰っていった。
 クリスマスプレゼントなんて準備していないと言う新一に、平次は自分も何も持って来なかったんだと言って笑った。こうして、わずかでも一緒の時間を過ごせることが、お互いの一番のプレゼントだなんて言いあった。
 こんな短い時間のために、わざわざ時間とお金をかけてやって来るなんて、バカみたいだと思うけれども、平次は後悔なんてしていない。
 それは新一も同じだった。
 実際のところ、年に何回も会えない遠距離恋愛で、更に男同士なんて制約も付く。
 他人に知られたら、何て言われるか想像したくないけれど。寂しくて、厳しい恋をしていたけれども。
 一人きりのクリスマスの夜を自宅で過ごす新一と、その新一から離れて行く平次は、とても幸せだったのだ。


                              《ende》
                           03,12,22
冬コミスペースが取れなかったので
突発でアップいたします。
元ネタの歌は
某関西方面アイドルのクリスマスソング。
でもきっと、ウチの10年後の二人は別れてます(笑)
そんなことを思いながら書いてみました。