Special Day

BY 月香


「え?何?お前の誕生日って、もう随分前だったんじゃんか!?」
 誕生日の話題が出たのは、何気ない日常会話からだったが、新一はこの間、自分の誕生日を皆に祝ってもらったことを思い出したので、今が平次の誕生日を聞き出す良いチャンスだと思ったのだ。
 だが、せっかく聞いてみれば、自分が平次の誕生日を祝ってやれるのは、何ヶ月も先の話だということが分かった。
「なんでもっと前に言わねーんだよ……」
 新一こそもっと早く聞いておくべきだったのだろうが、自分の誕生日だってすっかり忘れていて、当日になって平次からプレゼントをもらい、やっとそのことに気づいたくらいだ。
 事件や推理、そしてサッカー以外の事柄に興味の薄い新一にしては、今こうして、平次の誕生日を聞き出そうとしていることだけでも、かなりの進歩と言えるだろう。
 新一の誕生日には平次はもちろん、蘭や園子、阿笠博士や灰原哀がこの工藤邸に集まって、ささやかながらパーティを開いてくれた。正直、他人と余り深く付き合うことが苦手な新一にとって、丁度良いくらいのメンバーだけで行われたパーティは、心地良いものだった。
「知ってたら、何かお祝いしてやったのに」
 口を尖らせて文句を言うと、平次は満面の笑顔を向けた。


「工藤のその気持ちだけで十分やで?」
 本当に、新一が自分の誕生日を祝ってくれるという、そんな考えを持ってくれただけで、平次は本当に嬉しかった。しかし、実際に自分の誕生日を前もって教えていたとしても、新一が当日までちゃんと覚えているかどうか、甚だ怪しいものがあったが。
「だってせっかくの特別な日なんだし……」
 新一はそんなことを言ったが、平次は本当に新一がそんなことを思っているのかと疑問に思った。新一は誕生日なんてイベント、全く気にしないタイプに思えていたからだ。周りがどんなに騒いでいても、一歩外から常に冷静に物事を見ている新一は、探偵として頼もしくもあり、同い年として少し寂しくもあった。
 もしかして、無理に自分に合わせてくれようとしているのかもしれない。平次は、目の前でぶつぶつと文句を言い続けている新一の顔を見つめた。
 平次は自分でも良く分かっているが、お祭り大好き関西人だ。誕生日は当然だが何か祝い事のネタでもあれば、何でもかんでも騒ぐ理由にしてしまっていた。
 新一は、そんな自分に少しでも合わせようとしてくれているんだろうか?
 だとしたら本当に嬉しいのだけれども──と平次は淡い期待を抱いた。
「特別でもないんちゃう?」
「なんで?」
「誕生日だけが特別な日なんとちゃうやろ?昨日も、一昨日も、そして明日も工藤と居れる日、全部が特別なエエ日やんか」
 初めて会った時は、高校生探偵のライバルとしてだった。残念なことに新一は、『西の服部』なんてまったく知らなかったらしいが。
 江戸川コナンが工藤新一だと気づいた平次に、その秘密を話してくれた。ただの知り合いから探偵仲間になり、友人になった。そのうち、親友としてのポジションまで手に入れた。
 これ以上を望むべくもないと思っていたが、今日は何と、自分の誕生日を尋ねてくれた。
 もっと、自分のことを知って欲しいし、自分もまた新一の全てを理解したくてたまらない。
 平次は新一との関係を築き上げていく、この何気ない日々の積み重ねを、本当に嬉しく思っていたのだ。


「──服部」
「ってな、和葉の受け売りなんやけど。アイツが読んでたマンガか小説に、そんな話があったんや。アイツ、全部オレに話して聞かせんねん」
 和葉の名前を出して、少し照れくさそうに説明してくれた平次に、新一は複雑な気もしたが、自分と一緒の毎日が全て特別なんだと言ってくれて、こっちまで照れてしまう。
「そうか、いい話じゃんか。でもオレだって、去年からずっといい日だぜ?」
 新一は平次に対抗して、そう言ってみる。
「ああ、ようやっと元に戻れてんもんな。良かったなぁ工藤」
 平次の言うとおり新一は昨年、小学生の姿から元の高校生に戻ることができた。更に心配していた高校も何とか卒業し、大学に進学することもできた。
 その大学には、コナンの時に知り合い、今では親友と呼べるまでになった平次も通っている。おそらく自分が江戸川コナンにならなければ、こんな出会いをすることは無かっただろうし、今も親友でいられたかどうかも分からない。
「元に戻れた、ってそれだけじゃないけどさ。……いやまあ、そんなとこかな」
「どっちやねん」
 曖昧な事を言う新一は、すかさず平次にツッコミを入れられたが、とりあえず笑って誤魔化しておいた。
 平次という、おそらくもうこの先の生涯、二度と会えないような人間と出会えて、親友になれたこと。そして、誕生日を祝ってやりたいと思う奴が今、目の前に居るってこと。
 新一は、今日まで繋がる特別な毎日に、感謝しようと思った。


                                     《ende》
                                   05,6,30
 
えりりん様の6800ヒットお礼小説です。
リク内容は「ほんわか幸せな新・平」でしたが
こんなんでよろしかったでしょうか?
元ネタは「マリみて」です(笑;)
季節に合った話をと思って考えましたが
そういや、工藤の誕生日が過ぎたばっかりだなーと。
ちなみに私的な服部の誕生日は、12月10日です。
(具体的だな……(笑))

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