【紅くて青いリンゴ】
BY 月香 具合が悪く寝込んでいる鴆の元に、リクオが見舞いに来た。 学校帰りにすぐに朧車に乗ってやってきたので、学生服のままだった。 昨日も様子を見に来たのだが、熱にうなされていたので、そっと顔だけを見て帰ったのだ。 今日はなんとか起きているらしい。枕元に冷めた粥の入った器があったが、中身はほとんど減っていないようだった。 虚弱な体質の鴆は、ちょっとした季節の変化でもすぐに体調を崩す。 だから、こうやって寝込んでいるのも毎年のことなのだと薬鴆堂の妖怪から聞いても、リクオはやはり心配でならないのだ。 リクオが部屋に足を踏み入れると、横になっていた鴆はすぐに主の来訪に気がついて、無理に体を起こそうとした。 「あ、駄目だよ、寝てて」 「……ああ」 素直なことに、鴆はすぐに再び布団に横になった。 意地を張って無理に起きようとしないと言うことは、やはりかなり具合が悪いのだ。 「……鴆君、気分はどう?昨日よりはマシになった?」 鴆は、リクオの声をぼんやりとしながら聞いていた。単純に、リクオが見舞いに来てくれたことが嬉しかった。 「ああ。……すまねぇな……見舞いに来てもらって……」 「ねぇ、何か食べたいものとかある?」 蛙番頭から、鴆は薄いお湯のような粥くらいしか口にしていないと聞いていたため、好きな物ならいくらか喉を通るだろうと思ったのだ。 「あー、うん……」 しかし鴆は、熱で潤んだ瞳をじっとリクオに向けたままだ。 「なんでもいいよ?果物とか食べる?」 果物、と聞いて鴆の唇が僅かに動いた。 「……かい」 「え?」 鴆の低い声をしっかり聞こうと、リクオは身をかがめて顔を近づけた。 「やわらかい、リンゴ……」 それは用意するのは難しいものでは無かった。 「リンゴだね?分かった、用意してくるよ」 リクオは、鴆が再び眠りに付いたことを確認してから、枕元の冷めた粥の入ったお盆を持ち、鴆の希望を叶えるために台所へ向かった。 リクオは考えた。 柔らかい、リンゴ。 リクオは詳しくはないが、リンゴは品種によって味も食感も違う。鴆が食べたいものは、どういうものだろうか。 まずリクオが向かったのは、台所だ。 鴆の食器を下げにいくついでに、台所に居る妖怪にリンゴのことを訊ねてみる。 「……ねぇ!リンゴってある?」 「へ、ええ?リクオ様?」 いきなり現れた総大将に驚き、更にリクオが手に持っているお盆を見て、妖怪は顔を青くした。 リクオが薬鴆堂に来ていることにも気づかなければ、鴆の食器を下げることも疎かにしていたのだ。 「申し訳ありません!そのような雑事を……」 慌ててリクオに駆け寄り、その手から盆を受け取る。 その手がカタカタと震えているのを見て、妖怪の心情を察した。リクオは、気にしないで欲しいと笑顔を向ける。 「いいんだよ。鴆君の世話なら、もっとしてあげたいくらいだよ。それよりも……」 「な、何でしょう……?」 「ここに、リンゴってある?」 「は、はい!」 さっと妖怪が床に置いていた籠から探し出して持ってきたのは、普通の紅いリンゴだ。 皿に乗せられ、うやうやしく差し出されたそれを片手で掴んだリクオは、軽く力を入れて握る。 「……うーん、硬い……よね」 鴆は『柔らかいリンゴ』が食べたいと言ったが、……そもそも柔らかいリンゴは外側から触って分かるものなのだろうか──。 複雑な顔をして押し黙ったリクオに、妖怪がオロオロと狼狽えながら上目遣いでリクオの様子を伺っていた。 「リクオ様?……お気に、召しませんでしたか?」 再び恐縮して固まる妖怪に、リクオはにっこりと笑って手を振った。 「ううん。なんでもないよ、ありがとね」 「−−ねぇ、番頭さーん!」 リクオは蛙番頭が控える仕事部屋へと、小走りに向かった。 「はい、なんでございましょう」 パソコンに向かって仕事をしていた蛙番頭が、くるりとリクオの方へ振り向いた。 「鴆君って、リンゴ好き?」 何を言われるかと身構えていた蛙番頭は、首を傾げながら答えた。 「はい。果物ならなんでもお好きなようですよ」 蛙番頭の記憶では小食の鴆だったが、水菓子は良く好んで食べていた覚えがある。リンゴに限らず、果物の類いは何でもだ。 「鴆君が、『柔らかいリンゴ』が食べたいって」 リクオは、先程の話を簡単に説明した。 「さようですか!……ふむ、柔らかい……」 蛙番頭は、ならばと目の前のパソコンに指を滑らす。 人間の機械に詳しい蛙番頭は、インターネットも使えるのだ。 いくつかのキーワードを入れて、表示されるいくつものページをざっと眺めた蛙番頭は、すぐに目当ての情報を見つけた。 「ああ、この品種のリンゴは、柔らかくて美味しいと書いてありますね」 「それ印刷して」 リクオに請われるままに、蛙番頭はその画面を印刷して手渡す。 リンゴの情報をざっと確認したリクオは、ウンと頷いた。 「よし、買ってくるよ!」 そう言い、早速部屋を出ようとしたリクオの背に向かい、蛙番頭が声をかけた。 「あ、総大将が御自ら買い出しなど恐れ多いことです。屋敷の者に行かせますから!」 「いいの。ボクがそうしたいんだから。──朧車!」 リクオは蛙番頭が止める声は無視し、颯爽と外へと飛び出した。 丁度、庭には自分が本家から乗って来た朧車が停めてある。空を飛べば、あっという間だ。 リクオは懐に仕舞っていたスマホを取り出し、近くのデパートの場所を検索する。 色々な種類のリンゴが出回るまではまだ少し時期が早いが、大きな専門店に行けばあるだろうと思ったのだ。 数時間後、リクオは手に大きな紙袋を抱えて薬鴆堂へと戻ってきた。 やはりデパートの果物屋には贈答用などの需要があるのか、色々な品種のリンゴが売られていた。 リクオは店員にも確認をしながら、鴆が食べたいと言った『柔らかいリンゴ』であろう品種を、いくつか選んで買って来たのだった。 台所へ行き、リンゴを剥くための包丁を貸して欲しいと言うと、慌てた台所の妖怪が自分が剥くと申し出たので任せることにする。 リクオは、買って来たたくさんのリンゴのうち、紅くて良い香りのするものを更に選んで、それを鴆に食べて貰うことにした。 妖怪は、鴆が食べやすいようにと小さく一口大にカットしたものと、他に擦り下ろしリンゴも用意して器に盛った。 リクオは、小さなリンゴの欠片をひょいと指で摘まんで味見をする。 うん。柔らかくて甘い。 噛む力を余り入れなくても、ほろりとこぼれ落ちるような柔らかさだった。 そうして用意したリンゴを台所の妖怪が鴆の部屋まで運ぶと言うのを、リクオは丁寧に断った。 リクオはそっと、鴆の寝室の戸を開けた。 その音に反応した鴆が、首を軽くこちらへと向ける。 鴆が起きていることを確認し、リクオはなるべく静かに部屋へと入った。 「鴆君、リンゴを持ってきたよ。食べられる?」 熱で赤い顔をリクオに向け、鴆はぼんやりとしていたが小さく口を動かした。 「……ああ、すまねぇ」 「お粥以外のものも、食べられるようにならないとね」 リクオは鴆の傍らに膝を付いた。横になったままでは食べ辛いだろうと、背と頭に手を添えて、ゆっくりと起き上がらせる。 自分の胸にもたれかけさせるように支えてから、リクオは腕を鴆の前へと回し、小さく切ったものと摺り下ろしたリンゴ一緒にをスプーンに乗せ、鴆の口元に差し出した。 熱でかさついてしまった鴆の唇の中に含ませるように食べさせる。 「どう?鴆君」 リクオは、後ろから覗きこむような形で鴆の表情を伺った。もごもごと口を動かし、しばらく時間をかけてようやく飲み込んだ。 「うん。……美味いよ」 鴆は、ぼそりと答えた。 「もっと食べる?」 リクオはスプーンにリンゴを乗せて鴆の前に差し出したが、それをじっと見ていた鴆がようやく口を開けた。じゃあ二口目を、と思っていたリクオは残念な言葉を聞くことになる。 「……いや、やっぱり……食いたくねぇ」 鴆は、食べ物が喉を通らないと言い、熱い溜め息を吐いた。 何度もリクオにすまないと謝りながら、鴆は結局、薬湯だけを飲んでまた横になったのだった。 鴆の部屋を出たリクオは、残ったリンゴを入れたお椀をじっと見つめながら、俯くように廊下を歩いていた。 「……あんまり、美味しくなかったのかな」 リクオが味見をした時は、確かに美味しいリンゴだった。 熱を出して体調の悪い鴆は味覚が変化しているかもしれない。 「もっと、甘いっていうか、濃い味じゃないと分かんなかったかも……?」 それとも、鴆が食べたかった『柔らかいリンゴ』とは違ったのだろうか。 リクオはううんと唸る。 たくさん食べて欲しかったのでたくさん買ってきてしまい余ったリンゴは、蛙番頭に預けておくことにした。 「えっと、新鮮なうちに皆で食べてくれる?」 どうやら鴆の口には合わなかったらしいと、リクオはこっそり溜め息を吐いた。 「──ありがたく、頂戴いたします」 蛙番頭は、恭しく頭を下げながら、リクオが自らの足(朧車)で買いに行ったリンゴを受け取った。 まだ寝込んでいる鴆のことは心配だったが、蛙番頭に、薬湯だけでも飲めるのであれば、鴆はとりあえずは大丈夫だと言われ、リクオは本家に帰ってきていた。 買いすぎたリンゴのいくつかは持ち帰っていたので、母親に渡す。 流石に本家に居る妖怪全員分は無かったので、母親と祖父、後は早い者勝ちで食べて欲しいと伝えた。 「あら、じゃあ早速剥きましょうね」 若菜は果物ナイフを用意して、リクオの目の前で皮を剥いていく。 わざと紅い皮を残し、可愛らしく兎リンゴにされたものをどんどん皿に盛っていった。 いつの間にか現れた祖父ぬらりひょんが、横から手を伸ばし、皿に置かれた兎リンゴを次々にと口へと運んでいた。 この調子では、ほとんと祖父に食べられてしまうだろうなと思いながら、止める気も無いので放っておく。 「おじいちゃん、美味しい?」 「うむ。……しかし、もっと歯ごたえのあるリンゴも良いのう。あのシャクシャクした感触が堪らんのじゃ」 「今日は、柔らかいリンゴを探して買って来たんだよ」 鴆が食べたいものを選んで買ったのだ。 「あら?貰い物じゃないの?」 若菜は、てっきりリクオが誰かから貰ってきたものだと思っていた。 「ボクが買って来たんだ」 「そうかそうか、馳走になったのぅ、リクオ」 ぬらりひょんは満足そうに笑いながら部屋を出て行った。皿の上は、空っぽになっている。 「お義父さんったら、仕方ないわねぇ」 若菜は笑いながら、最後の一つの皮を剥き始めた。 リクオは、あの祖父の食欲が少しでも鴆にあれば良いのにと思う。 「ねぇ、お母さん。病気の時って、リンゴとか食べたくなるよね?」 若菜は手元のリンゴに視線を向けたまま、息子に答える。 「そうねぇ。果物なんかは甘くてさっぱりしてて、食べたくなるわね。──どうかしたの?」 病気の時、などという話題は、例え話にしてはあまり良い話ではない。 リクオは少し困ったように、口を開いた。 「うん……鴆君がまた寝込んじゃって、ご飯もろくに食べられないみたいで──」 「あら、心配ねぇ」 若菜は、鴆の容態を心配したが、それと同時に息子の様子を珍しいと思って見つめていた。 鴆が体調を崩すことは良くあることだったが、若菜がそのことでリクオから相談を受けたことは今まで無かったからだ。 「『柔らかいリンゴ』って、どういうものなのかな。ボク、果物屋さんで柔らかいリンゴを探して持っていったんだけど……」 リクオは、鴆がリンゴを食べたいと言った話を若菜に簡単に説明した。そして、結局鴆はリンゴを一口しか食べなかったことも。 どうしたら鴆に喜んで貰えるのか──。 若菜は、息子が義兄弟に並々ならぬ好意を寄せていることに気づいている。相手を大事にしたい、喜んで欲しいと真剣に考えている姿を、微笑ましく思ったのだった。 若菜は自分で剥いた兎リンゴを一つ摘まんで、食べてみた。 確かにこのリンゴは柔らかく、食べやすいものだと思う。けれど、もっとこれを食べやすくするためには……。 「あ、そういえば──」 若菜には一つ、思い当たることがあったのだった。 「……鴆君?目が覚めた?」 「お、おう……リクオか」 リクオが見た限り、昨夜よりは鴆の容態は安定しているように見える。 だが、額に手を当てると、かなり熱い。 「ちゃんと薬、飲んでる?」 「ああ……、大丈夫だ」 リクオは寝ていた鴆に手を貸して、布団の上に上半身を起き上がらせる。 はぁと深く息を吐いた鴆はリクオの支えが無ければ、すぐにでも倒れてしまいそうだ。まだまだ床に就いていなければいけないだろう。 枕元に置いてあった水差しから茶碗に水を注ぎ、鴆に手渡すと、手に力が入らないため茶碗を落としそうになる。 「お水、飲める?」 「……ん」 鴆はリクオの手を借りて、水を一口飲んだ。 「ご飯、食べてる?」 「……ん……、いや」 やはりまだ、固形物の食事は喉を通らないらしい。 リクオは、ならばと自分の持って来た包みを取り出した。端から見たら、弁当箱にしか思えない。中には若菜が用意してくれたタッパーが入っている。 蓋を開け、その中身を鴆に見せた。 「鴆君が昨日食べたいって言ってた、柔らかいリンゴだよ」 「……オレ……そんなこと言ってたか……?」 熱に浮かされていた鴆は、あまり良く覚えていないらしい。 「いいから、ちょっと味見してみて?」 リクオはこれもまた持参していたスプーンを取り出す。 タッパーの中のリンゴを、スプーンで少しだけすくって鴆の口元に運んだ。 鴆は、クンと香りを嗅いで、薄く唇を開いた。 「はい、あーん」 「ん……」 素直にリクオの手から食べ物を取ってくれる鴆を見て、リクオは、普段は絶対こんなことさせてくれないだろうなと思いながら、貴重な瞬間を満喫していた。 リンゴを口にした鴆は、もごもごと口を動かし、しばらく時間をかけてようやく飲み込んだ。 ここまでは昨日と同じだ。 リクオは鴆の様子をじっと観察していた。 「ああ、美味い……」 ぽつりと呟いた鴆の前に、リクオはドキドキしながら二口目のリンゴをスプーンにすくって出す。 「そう?良かった。……もう一口食べる?」 前にリクオがデパートから買って来たリンゴは、一口だけ食べて止めてしまったが……。 鴆は、こくんと頷いて、リクオが再び差し出したスプーンから二口目を貰ったのだった。 リクオは、中身が半分になったタッパーを見せながら、満足気に蛙番頭に報告にやってきた。 「良かった、鴆君がようやくお粥以外のものを食べたよ!」 全部は無理でも、かなりの量を食べてくれたのだ。 「それは良うございました」 蛙番頭も、ほっとした表情をしている。 昨日は、自分から食べたいと言っていたのにリンゴを一口しか食べなかった鴆だったが、今日のリンゴは趣の違ったものだったらしい。 「中を拝見してもよろしいですか?」 「どうぞ」 蛙番頭は、さて、総大将が義兄弟のために用意してきたのはどんなものなのだろうかと興味深げにタッパーを覗き込んだ。鴆の好物だとすれば、台所の妖怪に作らせることになるかもしれないからだ。 中には、黄金色の砕かれたようなリンゴが入っていた。 「それが鴆様が食べたかった『柔らかいリンゴ』なんですか?」 そう言われると、リクオはこれが正解だったのかどうかは断定は出来ない。 「うーん、多分。──お母さんに作って貰ったんだけど」 「なんと、若菜様のお手製でしたか!?」 そのような貴重な物を──と、蛙番頭は恐縮した。しょっちゅう薬鴆堂を訪れる総大将とは違い、本家の奥方様とはあまり面識が無いのだ。 リクオはタッパーの中身を蛙番頭に説明した。 「リンゴは、普通のリンゴなんだけど」 そんなに高級でもない、噛むとシャクシャクと音のする普通のリンゴだ。甘さも、すっぱさも普通。 「これ、煮てあるんだよ」 若菜が用意してくれたのは、リンゴ煮だった。 それも、一番シンプルな作り方で砂糖もレモンも入れず、ただ単純にリンゴに熱を加えて、それを細かく切って軽く潰し、粗いジャム一歩手前くらいの状態になったものだった。 何故、若菜がこれを用意してくれたのか。 「昔ねぇ、鴆君が小さい時、ウチで熱を出して寝込んだことがあるんだって」 「本家で、ですか」 鴆が幼い頃の話であれば、薬鴆堂では新参者の蛙番頭は知らない話だった。 「うん。ボクも生まれて何ヶ月かくらいの時で。鴆君のお父さんがずっと本家にいたから、だったら鴆君もウチで看病したらいいだろってことになったらしいんだけど……、やっぱり、ご飯が食べられなくなって、鴆君のお父さんも困っちゃって。そのとき、お母さんがこれを鴆君に食べさせてあげたら、たくさん食べてくれたんだってさ」 余計な物を入れていない煮詰まったリンゴは、果実本来の味を感じることができた。 冷たい摺り下ろしたリンゴより、温かい煮リンゴが弱った鴆の体を優しくいやしてくれたのだろう。 「本家でのお話でしたか」 蛙番頭はうむむと頷く。どうりで、薬鴆堂に昔から居る調理人も『柔らかいリンゴ』と言われ、心当たりが無かったはずだ。 「そんな特別なリンゴだったのですね」 「うーん、特別って言うか……、ううん。特別だよね」 少し恥ずかしそうに笑いながら、リクオは蛙番頭にその秘密を教えてくれたのだった。 「これねぇ、……ボクの離乳食だったんだって」 「……なんと」 その秘密は、蛙番頭の予想の範疇を超えていた。 「ボクも良く食べていたみたいだよ」 若菜は『リクオもこれが大好きだったのよ』と言いながら、これを作ってくれたのだ。 「ボクが好きだったものを、鴆君も好きだったってことが……ちょっと嬉しいかな」 リクオは照れくさそうに笑っている。 「あ、鴆君には内緒だよ。ボクが言いたいからね」 「……は、はい」 なんとか平静を装って返事をした蛙番頭の脳裏には、回復した鴆に嬉しそうにそのことを語るリクオと、その話を聞いて── 『リクオにリンゴを買いに行かせて、使いっ走りをさせてしまった!』 『子供の時の話とはいえ、大切なリクオの食事に手を付けていたなんて、なんてあさましいんだオレは!』 『あげくに、昔どころか今になってまで若菜様のお手も煩わせて……薬師失格だ!』 と、紅くなったり青くなって、大騒ぎする鴆の姿が簡単に浮かんだが、フォローは全て総大将にお任せすることにしたのだった。 (2014/09/23 終) |
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